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この記事は眼科ではハラスメント対策の義務化について眼科専業コンサルタントの仲が執筆しています。
2026年10月1日から、すべての事業主にカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務付けられました。
患者さんからのクレームへの対応や、日々の診療における患者さんとのコミュニケーション。
クチコミなど患者満足度にも配慮しながら診療を行うなかで、患者さんへの応対に苦慮される場面もあるのではないでしょうか。
今回の義務化を受け、患者さんからの不当な要求や過度な迷惑行為からスタッフを守るため、
医院の対応方針や院内の相談体制などを見直されたクリニックも多いかと思います。
(対応がお済で無い先生はお早目にご対応ください。)
スタッフが安心して働ける環境を整えるためには、院外からのハラスメントだけでなく、
職場内のハラスメント、つまりはパワハラにも目を向ける必要があります。
パワーハラスメントについては、2022年4月から中小企業を含むすべての事業主に防止措置が義務づけられています。
例えば、次のような状況に心当たりはないでしょうか。
「採用しても新しい人がどんどん辞めてしまう」
「優秀なスタッフを教育係につけた部門で、退職者が相次いでいる」
こうした状況には様々な要因が考えられますが、
可能性の1つとして、職場内のパワーハラスメントが影響している可能性もあります。
今回のカスハラ対策の義務化を院内外のハラスメント対策を見直す良い契機としていただくべく、
本コラムでは、医院経営において押さえておきたいハラスメント対策のポイントを、
院内・院外の両面で整理し、スタッフが安心して働ける環境づくりについて解説します。
カスタマーハラスメント(カスハラ)対策では、事業主に次の措置を講じることが求められています。
◆ 事業主の方針の明確化と周知・啓発
① カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、従業員を保護する方針を明確にして、周知・啓発する
② カスタマーハラスメントの内容と、発生時の具体的な対処方法を従業員に周知する
例えば、初期対応においては現場リーダーに対応方針の指示を仰ぐ、可能な限り従業員を一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動については警察への通報を検討する、といった対応方法をあらかじめ定めておくことが重要です。
◆ 相談体制の整備
③ 相談窓口をあらかじめ設け、従業員に周知する
④ 相談窓口の担当者が、相談内容や状況に応じて適切に対応できる体制を整える
◆ 事後の迅速かつ適切な対応
⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認する
⑥ 被害を受けた従業員に対し、必要な配慮を行う
⑦ 再発防止に向けた措置を講じる
◆ 対応の実効性を確保するための措置
⑧ 特に悪質なカスタマーハラスメントへの対処方針をあらかじめ定め、
従業員に周知するとともに、実際に対応できる体制を整える
◆ そのほか併せて講ずべき措置
⑨ 相談者などのプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知する
⑩ ハラスメントについて相談したことなどを理由に、不利益な取扱いを受けない旨を定め、従業員に周知・啓発する
これらの対策は、単にマニュアルを整備すれば十分というものではありません。
実際に問題が起きた際、スタッフが迷わず適切に対応できるよう、院内での指針を周知しておくことが重要です。
医療機関におけるカスハラ対策を考えるうえで、気になるのが「応召義務」との関係ではないでしょうか。
医師法第19条第1項では、診療に従事する医師は、診察や治療の求めがあった場合、正当な事由がなければ拒んではならないと定められています。
そのため、患者さんから暴言や過度な要求があった場合でも、
医療機関としてどこまで対応すべきか、判断に迷うことがあるかもしれません。
しかし、応召義務があるからといって、患者さんのあらゆる要求に応じなければならないわけではありません。
厚生労働省は、応召義務について、患者さんの状況や診療の緊急性、医療機関の対応能力など、
個別の事情を踏まえて判断する必要があるとしています。
令和元年の「医師の働き方改革の推進に関する検討会」にて以下ように述べられています。
① 患者の迷惑行為
診療・療養等において生じた又は生じている迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合(※)には、新たな診療を行わないことが正当化される。
※ 診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続ける等。

(出典:厚生労働省「第6回 医師の働き方改革の推進に関する検討会」令和元年12月25日)
大切なのは、患者さんからの正当な苦情や要望と、社会通念上許容される範囲を超えた言動であるかを区別することです。
院内で対応方針や報告ルートを共有し、スタッフ個人で判断を委ねない仕組みを整えておくことが重要です。
患者さんからのハラスメント対策と同じように、見直しておきたいのが職場内のパワーハラスメント対策です。
職場におけるパワーハラスメントとは、次の3つの要素をすべて満たす言動を指します。
① 優越的な関係を背景とした言動であること
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
③ 労働者の就業環境が害されること
例えば、業務上の指導であっても、人格を否定するような暴言を繰り返したり、
必要以上に威圧的な態度で叱責したりする行為は、パワーハラスメントに該当する可能性があります。
一方で、業務上必要な指示や、適切な範囲での指導がすべてパワーハラスメントに当たるわけではありません。
言動の目的や経緯、態様などを踏まえて判断する必要があります。
医院では、経験や知識が豊富で、業務を効率よく進められるスタッフが、新人教育や後輩指導を任されることがあります。
例えば、次のような状況が考えられます。
・自分ができることを基準に、新人にも同じスピードや理解度を求めてしまう
・忙しさから説明が不足し、できない理由を本人の努力不足として扱ってしまう
指導を担当するスタッフに十分な時間や支援がないと、余裕を失い、指導が次第に厳しくなることがあります。
その結果、新人が質問や相談をしにくくなり、理解不足やミスが生じても周囲に助けを求められないという悪循環につながりかねません。
こうした状況下では、人間関係のストレスなど職場環境の悪化にもつながり、
新人が職場に定着しにくいなど、早期離職の一因にもなる可能性があります。
そのため、問題を個人の指導方法だけに帰結させず、教育体制や業務負担、職場内のコミュニケーションも含めて検証することが大切です。
パワーハラスメント対策では、明らかに問題のある言動を防ぐことだけでなく、
日頃のコミュニケーションのあり方を見直すことも重要です。
また、教育を特定のスタッフに任せきりにせず、指導に必要な時間を確保するとともに、困ったときに周囲へ報告・相談できる体制を整えることも重要です。
ハラスメント対策は、方針やマニュアルを整備するだけで十分というわけではありません。
大切なのは、医院の方針と日々の運用を一致させ、実際の対応につなげることです。
カスハラであってもパワハラであっても、明確な基準があいまいだと、
「相談しても何も変わらない」「報復が怖い」「自分が我慢すればよい」と考え、声を上げられないスタッフがいる可能性もあります。
こうした状況を防ぐためには、どんな行為がハラスメントにあたるのか、
問題が起きた際に誰に相談・報告すればよいのかを、スタッフ全員が理解しておくことが重要です。
例えば、ハラスメントに関する研修への参加や、定期的に医院での対応方針を読み合わせるなどの機会を設けることも有効です。
組織が一貫した基準で対応すれば、スタッフは「困ったときにどう行動すれば適切なのか」行動指針に信頼を持ちやすくなります。
ハラスメント対策というと、法令遵守やトラブル防止のための取り組みと捉えられがちです。
しかし、その本質は、従業員が安心して働き、それぞれの能力を発揮できる職場をつくることにあります。
2026年10月のカスハラ対策義務化をきっかけに、パワハラ対策も含めて、
自社の規程、相談体制、対応手順、管理職教育を見直してみてはいかがでしょうか。
患者さんから従業員を守る仕組みと、スタッフ同士が互いを尊重できる職場環境。
その両方を整えることが、人材の流出を防ぎ、組織の力を高める第一歩になります。