時事情報・その他

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時事情報・その他2026.10.9

最低賃金の引上げから考える、眼科クリニックの収益性を維持する経営戦略

この記事は眼科の経営について眼科専業コンサルタントの仲が執筆しています。

2026年の最低賃金改定と眼科経営を取り巻く環境

 

2026年度の地域別最低賃金について、各都道府県の地方最低賃金審議会による答申が出そろい、
答申ベースでは全国加重平均1,177円、56円の引上げとなっています。

物価上昇への対応という観点から、最低賃金の引上げは働く人の生活を支える重要な政策です。
一方で、保険診療を中心とする医療機関では、一般企業のようにコスト上昇分をそのまま診療価格へ乗せることは困難です。

そのため、最低賃金の引き上げや人材確保を背景とした賃金水準の上昇、
物価上昇による仕入れ・設備・外注費などのコスト増は、クリニックの収益性に直接的な影響を及ぼします。

さらに眼科では、最低賃金の引上げや物価上昇によるコスト増に加え、令和8年度の診療報酬改定による医業収入への影響も見逃せません。

今回の改定では「短期滞在手術等基本料1」についての見直しが行われ、
日帰り手術を行う眼科クリニックでは、局所麻酔で手術を行った場合に算定される「(2)(1)以外の場合」の点数が、1,359点から680点へ大きく引き下げられています。


出典:令和8年度診療報酬改定について【医科全体版】

例えば、手術を月20件実施した場合、点数差だけで年間約163万円の医業収入減少に相当します。

日帰り手術を収益の柱の一つとする眼科クリニックにとって、医業収入に直接影響する重要な変更です。さらに、人件費や物価の上昇が続くなかでは、こうした診療報酬上の減収とコスト増が同時に発生する状況です。

そのため、今後の眼科クリニック経営では、手術件数を確保するだけでなく、1件あたりの収益性や手術にかかる人員・材料などのコストを把握し、診療体制そのものを見直していくことが重要になります。

収益性をどう改善するか

「賃上げをしても利益を確保できるクリニック」と、「賃上げするほど利益が削られていくクリニック」の差を生む要因はどこにあるでしょうか。

クリニックの収益性を改善するためには、「売上を増やすこと」と「コストを抑えること」の両面から考える必要があります。

患者数を増やせば、その増えた分だけ診療や受付などの業務量も増えるため、
「人を増やして売上を増やす」という考え方だけでは、今後収益性の改善につながりにくくなっていきます。

限られた人員と診療時間を有効に活用しながら収益性を維持するには、まず診療ごとの集積性を把握し、そのうえで患者基盤を安定させ、業務の生産性を高めるという3つの視点から、診療体制と収益構造を見直すことが重要です。

1.既存診療の収益性を把握する

まず取り組みたいのが、現在行っている診療や手術について、どの程度の人員やコストがかかっているのかを把握することです。
売上や患者数だけを見ると前年と大きな差がなくても、人件費や材料費などのコストが上昇していれば、同じ売上を維持していても収益性は低下している可能性もあります。

例えば手術であれば、単純に「月に何件実施しているか」だけを見るのではなく、使用する医療材料などのコストや物価上昇の影響、スタッフの配置などを確認することが重要です。
これまでと同じ診療を同じ体制で続けることが、必ずしもこれまでと同じ収益性を維持することにつながるとは限りません。

そのため、診療・手術ごとの収益と、それにかかる人件費・材料費・時間などを改めて確認し、「どの診療に、どれだけの人員・時間・コストがかかっているのか」を把握することが、収益性を維持するための第一歩になります。

2.診療機会・患者基盤の見直し

次に考えたいのが、患者数を増やすことだけに依存せず、患者さんのニーズに応じて提供できる診療の選択肢や、継続的な受診につながる体制を見直すことです。
その方法のひとつが、従来の患者さんとは異なるニーズに対応できる新たな治療の選択肢を設けることです。

例えば、2026年5月から販売が開始された後天性眼瞼下垂に対する点眼薬や、小児の近視進行抑制などが検討に挙げられます。
特に自費診療で新たな診療を導入する際は、その診療単独で採算が取れるかを確認するとともに、患者ニーズとの適合性、安全性、必要な説明体制、既存診療への影響も含めて判断することが重要です。
新たな診療をきっかけとして、これまで来院したことがなかった患者層への認知を広げ、診療の機会につなげられる可能性があります。

一方で、既存の患者さんについても、必要なフォローアップや定期受診につながる診療体制を整えることが重要です。

診療内容だけでなく、受付、待ち時間、説明、会計、予約の取りやすさなどを含めた受診体験を見直すことで、患者さんが必要なタイミングで継続して受診しやすい環境をつくることができます。

新患の獲得だけを追い続けるのではなく、新たな診療機会をつくることと、必要な継続受診を支えることの両面から、患者基盤を安定させることが重要です。

 

3.スタッフの生産性を高める

人件費が上昇する環境では、スタッフ数を単純に増やすのではなく、現在の人員でどれだけ効率的に診療を提供できるかを考えることが、これまで以上に重要になります。

例えば、例えば、受付や検査、会計などの業務の流れを見直し、スタッフの待ち時間や手待ち時間を減らすことができれば、スタッフ数を大きく増やさずに診療体制を維持・改善できる可能性があります。

ただし、単純に患者数を詰め込むことが生産性向上ではありません。
待ち時間が長くなったり、スタッフの残業が増えたりすれば、結果として患者満足度の低下や人材流出につながる可能性があります。
重要なのは、同じ人数・同じ診療時間のなかで、無駄な業務を減らし、医師とスタッフが本来担うべき業務に集中できる状態をつくることです。

具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
・業務分担の見直し
・人員配置の見直し
・属人化している業務の可視化
・医療DXによる事務作業の削減
・マニュアル整備による業務の標準化

例えば、
「ベテランスタッフでなければできない仕事と、他のスタッフでもできる仕事が整理されているか」「仕組み化できるルーティン業務を毎回手作業で行っていないか」といった視点で、院内業務を俯瞰して見直すことが重要です。

賃上げへの対応は「スタッフの定着」とセットで考える

最低賃金の引上げや人材不足が続くなかでは、採用だけでなく、現在働いているスタッフに長く働いてもらうことも重要な経営課題となります。
スタッフが退職すれば、新たな採用費だけでなく、教育コストや一時的な診療体制の縮小など、さまざまな負担が発生します。
そのため、賃金水準を見直すだけでなく、役割の明確化、教育機会、休暇の取りやすさ、業務負担、院内コミュニケーションなど、働き続けやすい環境を整えることが重要です。

特に注意したいのは、賃上げを行っても、業務量や残業が増え、スタッフから「労働環境が悪化した」と受け止められる状態です。
「給与は上がったものの、業務量が増えた」
「給与には満足しているが、残業が多い」という状態では、賃上げによる定着効果も限定的です。

だからこそ、これからの眼科経営では、
「賃上げ」+「生産性向上」+「働きやすさ」をセットで考える必要があります。

賃上げによって採用・定着面での競争力を高めると同時に、業務の無駄を減らし、スタッフが無理なく働き続けられる環境を整えることで、採用・教育にかかる負担を抑えながら、限られた人員でも安定して診療を続けられる体制をつくることができます。

物価高や賃上げが続いても、クリニックが収益性を維持するためには

「賃上げをしても利益を確保できるクリニック」と、「賃上げするほど利益が削られていくクリニック」

この差を生むのは、単純な売上規模だけではありません。
患者数や診療単価、手術件数といった売上に関わる要素だけでなく、人員配置や残業時間、業務の進め方、スタッフの定着率など、日々のクリニック運営の積み重ねが収益性を左右します。

だからこそ、最低賃金の引上げを「人件費が上がっても利益を確保できる体制をどうつくるか」という視点で考えることが重要です。

そのためには、「診療ごとの採算を把握する」「新たな診療機会をつくり、必要な継続受診を支える」「今いるスタッフで効率的に診療できる体制をつくる」「働き続けやすい環境を整える」といった取り組みを、一つひとつ見直していく必要があります。

最低賃金の引上げは、これまで当たり前になっていた人員配置や業務分担、患者さんとの接点、診療の進め方を見直し、これからの眼科クリニックの経営体質を考えるきっかけにもなるのではないでしょうか。

 

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