マーケティング
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本記事は眼科経営における高齢者のデジタルシフトと眼科クリニックの対応について、
眼科専業経営コンサルタントの仲が執筆しています。
「ホームページはある。でも正直、ほとんど更新していない」
「オンライン予約や電子化の必要性は分かるが、うちの患者さんに使いこなせるのか不安」
「デジタル対応を進めても、受付の手間やコストが増えるなら、今のままでいいのではないか」
ご高齢の患者さんが多いクリニックほど、このような考えが頭をよぎるのではないでしょうか。
確かに、予約や会計といった業務は、人による電話対応のほうが安心感もあり、スムーズに感じられる場面もあります。
しかし、「現場の実感」と「患者側の行動」の間には、デジタル化の進展とともに、少しずつズレが生まれてきています。
いまやシニア層においても日常的にスマートフォンを使い、電話やLINE、インターネットでの情報収集が当たり前に行われるようになりました。
以前、コラムの中で、眼科のメインターゲットである60~79歳の方の半数以上がインターネットを利用していることから、
眼科経営におけるWEBマーケティングの重要性をお伝えいたしました。
2026年6月時点の総務省の調査では、
年代別のインターネット利用率は60代の方で90.4%、70代の方でも69.8%に達しています。

(総務省 令和7年通信利用動向調査の結果より)
80代以上では33.1%とやや低下するものの、3人に1人はインターネットが日常生活とともにあり、
更にNTTドコモ モバイル社会研究所の調査では、LINEやInstagram、Facebook、X、TikTokのいずれかを利用している割合は、80代前半の方では47%に達しています。

(株式会社NTTドコモモバイル社会研究所 2026年シニア調査より)
また、新規患者の集患においては、医療機関の選定が「必ずしも本人だけではない」という点も見逃せません。
例えば、80代の患者さんの受診先探しを検討するのは、50~60代の子ども世代であるケースも多くあります。
この層は、インターネット検索や口コミ、ホームページの情報をもとの比較検討し、患者さんや大切なご家族にとって最適なクリニックを探します。
つまり、
「ホームページはあるが長年手を加えていない」
「予約は電話か直接の来院のみ」
「実際にクリニックに行ってみないと何時間待つかわからない」
といった状態は、シニア世代が中心のクリニックであっても、新規患者が来院先を決める“決定打“にはなりにくいことが現実です。
デジタル化に対応することで、特に高齢の患者さんへの説明の手間が増えるのではないか。
そのお気持ちは、患者様やスタッフの方々への負担への思いやりも含まれた、一見すると合理的なものです。
しかし実際には、すでに以下のような課題が生じている可能性があります。
・受付スタッフの電話対応の負担が大きい
・待ち時間を尋ねられ、クレーム回避のため長めに案内した結果、来院機会を逃してしまった
・会計待ち時間が長く、現金の受け渡しミスも頻繁に発生している
このように、日常業務の中には、目に見えにくい負担やロスが積み重なっている可能性があります。
つまり、電子化によって改善できる価値は、すでに院内業務の中に埋もれているのかもしれません。
確かに、システム導入時にはスタッフや患者さんに一時的な負担がかかります。
しかし、それはあくまで過渡的なものです。
重要なのは、「デジタルを使いこなせるかどうか」ではなく、
使わない状態を続けることで、どのような損失や非効率が積み重なっていくのかという視点です。
この差は、数年単位で見たとき、医院経営に明確な差となって現れてきます。
AISAS(アイサス)とは、2005年に大手広告代理店である電通が提唱したマーケティング用語です。
Attention(認知・注意)・Interest(興味・関心)・Search(検索)・Action(行動)・Share(共有)の頭文字を組み合わせた概念で、
インターネットが主流の時代における消費者の購買行動モデルを表しています。
このAISASモデルを、患者さんのクリニック選びに置き換えて考えてみます。
まず、「Attention(注意)」の段階では、
患者は看板や広告、近隣環境などを通じて、クリニックの存在を認知している状態にあること。
次に「Interest(興味・関心)」では、患者は「どのクリニックが良いか」という関心を持ち始めます。
例えば、通いやすさ、待ち時間の短さや院内環境、診療内容などが対象となります。
「Search(検索)」の段階では、ホームページや口コミ、知人からの紹介を通じて、
クリニックの情報を複数調べ、更に比較するという行動が発生します。
「Action(行動)」では、複数の医院を比較したうえで来院先を決定し、実際の受診へと至ります。
最後に「Share(共有)」では、受診後、友人や知人に勧めたり、口コミを投稿したりとクリニックで受けた体験を発信します。
なお、認知の段階においては、近隣住民であれば自然に認知・関心が生まれるケースも多くあります。
しかし、それ以降の興味関心、検索、行動、共有の段階では、オンライン上の情報や見せ方、評判が、
新規の来院に大きく影響する点が現代の特徴としてあげられます。
つまり、デジタル化への対応は、
「ホームページで知りたい情報が整理されている」「順番待ち予約ができる」「クレジットカード決済ができる」など、
患者さんにとって優先度の高い情報が多くあればあるほど、集患につながりやすいものになります。
ただし、完全にデジタル化に対応すれば集患効果が期待できるわけではありません。
重要なのは“手段”ではなく“設計”です。
例えば、
・予約システムは導入したものの、使い方が分かりづらく利用されない
・ホームページは整備したが情報が薄い
・オンライン対応を増やした結果、かえって現場のオペレーションが複雑化してしまった
このような状態では、せっかくコストをかけて導入したものが、コストだけが増えたという結果で終わってしまいます。
重要なのは、デジタル化そのものではなく、
“患者さんにとって分かりやすく、スタッフにとって負担が減る形で設計されているか”という視点です。
特にご高齢の患者さんが多いクリニックにおいては「すべてをデジタルに置き換える」のではなく、
・ホームページに患者さんからの問い合わせが多いことを掲載する
・電話予約とオンライン予約の併用
・おおよその待ち時間の“見える化”をする
・運用設計を行い、自動精算機を導入する
といった、“無理のない段階的な取り入れ方”が現実的です。
デジタル化はあくまで、人の対応を単に置き換えるものではなく、本当に取り組むべきことに集中するためのものです。
業務の一部をデジタルへ移行することは、人が担う業務や役割の価値を高めるための補助的なものです。
その結果、来院体験をより良いものへとアップデートでき、患者さんの院内での体験が、知人への紹介や良い口コミの投稿(Share)にもつながります。
今回はシニア世代のデジタル移行を軸に、院内のデジタル対応の必要性についてお伝えしました。
スーパーではセルフレジが広がり、お賽銭やお年玉もキャッシュレス化するなど、
シニア世代においても、インターネットやスマートフォンは日常的に使いこなしていて「思っているより使っている」というのが現実に近いのかもしれません。
デジタル化は、すべてを一度に大きく変える必要はありません。
解消したい悩みから無理なく整えていくことが、新規の患者さんの来院動機につながっていきます。「シニアはデジタルに弱い」という前提を見直すことが、実は最初の一歩なのかもしれません。